ニューヨーク・タイムズのオンラインを読んでいると、11月下旬にアメリカを訪問したサウジアラビアのアブドラ国王がチェレニー副大統領に対して、イラクからアメリカ軍が早期に撤退した場合、サウジアラビアはイラク国内にいるスンナ派を支援すると可能性があると伝えたそうだ。

 具体的な支援策は、財政支援をあげているようだが、状況に応じて対応すると伝えている。サウジアラビアは、イラク国内のスンナ派を支援することによってイラク国内における宗教対立の影響がサウジアラビアまで及ぼすのを防ぐことと、イラクにおけるイランの影響力を抑制することが狙いとされている。

 イランを中心とするペルシャ圏とその周辺領域においてシーア派は、パレスチナやレバノン、サウジアラビア東部、オマーン、パキスタンに多くいると言われている。イラクには、全人口のうち95%がイスラム教徒でそのうちの3分の2がシーア派とされている。シーア派教徒はスンナ派と比較するとおとなしい宗派であるようだが、イラン・イスラム革命にみられるように我々からするとスンナ派・シーア派であろうと過激な思想(とりわけ原理主義)と捉えられるようだ。

 両宗派の違いは、宗教指導において誰の言葉を信奉するかで分かれており、預言者の言葉を信じるのか、それともこれまでの宗教的な慣行を信じるか、とこのように複雑にわかれている。私は宗教に対する知識は乏しいので、日本の天台宗や臨済宗などの違いを聞かれても応えられないが、イスラムの世界でも同じように様々な派閥にわかれている。

 イランがイラク国内においてシーア派を支援する理由は、イラクに親米政権が樹立される自国の安全保障を脅かし、場合によっては過去のイラン・イラク戦争のような状況に陥り、宗教国家としての存続に大きく影響することがあげられる。また、反米国家であるイランにとってアメリカ軍がイラン近辺に駐屯するのは好ましくなく、反米組織・反米国家に対してできるだけの協力をしてきている。そのため、イランはパレスチナのヒズボラに対しても反イスラム・親米国家のイスラエルを攻撃するための援助を行っていた。

 対するサウジアラビアは、国王一家が国の総てであり、絶対君主制国家であるサウジアラビアにとって宗教革命によって国王が亡命を余儀なくされたイランがイラクにおける影響力を持ち、さらにサウジアラビアにまでイランの影響力をもって自国の安全保障と王家存続の危機にさらされるのは絶対に避けたい。そのためには、イラクから米軍が安定しないうちに撤退し、イラクがスンナ派政権が樹立されるのを避けたい。
 サウジアラビアは、国内においてワッハーブ派と呼ばれる過激派達の影響もあり、内憂外患の状態である。サウジアラビアの国名は、サウド家の国という意味で国王一家が大幅な権限を持っている。ワッハーブ派の中には、反国王派がおり、クーデター未遂もたびたび起こっていたらしい。サウド家は、国軍も完全には信用できず、サウド家と自国のために国内に米軍の駐屯を認めていた。

 現在のイラクは、アメリカとイランが対立する構造となっており、仮にアメリカが早期撤退を実現するとイラクでのバランスが崩れ、イラン対サウジアラビア(シーア派対スンナ派)となる可能性があり、中東情勢における雲行きが一層悪化すると見られる。