ロマンスカーは63年に登場した3100形、愛称「NSE(New Super Express)」以来、先頭車両にある展望席を最大の売りにしてきた。運転台が2階にあるので、運転士越しではない真の前面展望が望めるのが特徴だ。しかし、展望席は先頭の14席、後ろ向きとなる最後尾を加えても28席の“プラチナチケット”。大多数の人は、その眺望を享受できない。そこで87年に登場した10000形は、この前面展望に加えて「ハイデッカー」を採用し、側面の眺望も良くした。中間車輌の床を高くし、窓も大きくしたことで、すべての座席の魅力を高めたのだ。この10000形には「HiSE(High Super Express)」という愛称が付けられたが、これには「ハイデッカー」「ハイグレード」という意味が込められているという。
この10000形に続くかたちで91年にデビューしたのが20000形だ。これは「ハイデッカー」に加え、「ダブルデッカー」で「コンパートメント」を導入した車両が連結された“全部入り”。まさにバブル期の特急車両のお手本のような車両だ。愛称も「RSE(Resort Super Express)」とバブル期らしいネーミングだ。これは神奈川県の松田駅からJR御殿場線に乗り入れ、沼津まで向かうあさぎり号用に開発されたもの。乗り入れ相手であるJR東海も371系という車両を開発し、2往復ずつ分担することになった。ここで、車両そのものの特徴を紹介する前に書き記しておきたいのが、あさぎり号が誕生した背景についてだ。
これらバブル世代の豪華車両が一斉に引退するのはなぜか。本来、鉄道車両の寿命は30〜40年程度なので、20年程度で引退するのは異例のことだ。事実、10000形の7年前から運行している7000形「LSE(Luxury Super Express)」は現役続行という矛盾が生じている。その謎を探るべく、実際に乗ってみることにした。
運行開始後数年でバブル経済が崩壊し、リゾートブームも終焉。あさぎり号の沼津延長は失敗に終わったようだ。JRは空席の目立つ御殿場−沼津間のみ310円の追加で乗れる自由席特急券を販売するなどテコ入れしたものの、3月17日からは運行区間を新宿−御殿場間に短縮し、本数も平日は1往復少ない3往復に削減(土・日曜、休日は臨時列車を1往復走らせて現状維持)。車両もグリーン車のない小田急60000形「MSE(Multi Super Express)」6両編成に変更され、運行形態は20年前に逆戻りする。新たに任に就く60000形は最新車両だが、東京メトロ千代田線に乗り入れる通勤客向けロマンスカー「メトロホームウェイ号」向けに開発されたもので、特段豪華な車両というわけではない。小田急線内で新たに新百合か丘、相模大野、秦野に停車するようになる(ただし、逆に町田は通過になる)ことからも、利用実態を鑑み、短距離利用に軸足を移そうという狙いは明らかだ。ローカル線である御殿場線にグリーン車を2両も連結した豪華特急はそもそも不釣り合いだったといえる。